日本語の壁

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学 (光文社新書)

読んだ。マスメディアがどうして科学的に誤った情報や扇動的な情報を出しやすい構造にあるのかを、具体例に沿って書かれている。特にメディアが自分達の伝えた報道にほとんど責任を持たない(あるいはリスクヘッジに近いか)ということを強調しているように感じるが、やはりこのことが一般に受けやすい番組や特定の情報を鵜呑みにした記事等を量産していくということだろう。
この本は4月に出たばかりなのでネタが新しく、今ニュースで報じいられているような内容もある。バイオエタノールなんて今正に。また、ちょっと前の“あるある”のレタス快眠作用での長村さんのことや中国産野菜の残留農薬報道なんてのは、ぼくはこの本を読むまで新聞やテレビの情報をそのまま受け取っていた。自分も気をつけているつもりでも一面的な見方しかできていないことを思い知らされる。
途中で批判しているマスメディアの手法をそのまま使っていたり、情報の出所を明らかにしている辺りは、読者にも情報を穿って見ることを求めているのだろうか。本には載っていないが著者のウェブサイトには参考文献があり、一部はリンクも貼られているので労せず元の文献を辿ることが出来る。
食品安全情報blogの畝山さんの話のところで、『日本語の壁』について書かれている。問題の種類や程度はあるのだろうが、本の中では日本のメディアよりも欧米のメディアの方が科学報道に強い印象を受ける。ここでは直接にメディアについては言っていないが、日本の一般市民が騙されやすい一つの理由として、科学情報の根拠となる学術論文の多くが英語で書かれており、英語圏の人々は学術的に確かな情報を大量に入手できる一方で、日本の場合それが得難いとしている。
自分のことを思い返すと、確かに英語の文献にアレルギーが無くなって情報の幅が広がったと感じる。だとしたら、物心つく頃から英語を習わせる、というのが最適解なのだろうか、と考えてしまう。けれど、現に英語圏の人が全員騙されないわけはなく、英会話が出来るからといって論文から的確な情報を得ることが出来るわけではない。まずは日本語だろー、と反応してしまった。
別に本には「英語を習わせるべき!」とは全く書かれておらず、英語の情報を誰かが日本語で流していくことの重要性を語っているのであった。このような日本語の壁はメディアの人間にもあると思う。研究者は学会発表や論文の数やらだけでなく、このような専門的な情報を伝えるということについても評価される仕組みが欲しいところだ。
最後に『科学報道を見破る十カ条』なるのもがあるのだが、10番目が秀逸である。
そんなこんなで、オススメの一冊。