驚愕

台所で飯の準備をしていると、テレビから“水にありがとう”やら“水にばかやろう”やら聞こえてくるではないか。
急いでテレビに駆け寄ると、テレビ朝日の『ワイドスクランブル』という番組の中で日刊ゲンダイの記事が紹介されていて、なんとそれは『水からの伝言』に肯定的なものだった。
まだネットに記事が出ていないので、コンビニで日刊ゲンダイを買った。そこから記事を抜粋。
日刊ゲンダイ2006年3月10日(9日発行)の13面

酒ネタ 街ネタ


「ありがとう」と声をかけた水はストレス解消にいい?!


 小川や滝などきれいな水のそばに行くと、不思議と気分が落ち着きますが、水の不思議さはそれだけではありません。水に言葉をかけたり、見せたりすると、結晶の形が変わる。それも、言葉によって、結晶の形が違ってくるというのです。
 水の研究者で「水からの伝言」などの著書のある江本勝氏は、水の入ったボトルに「ありがとう」とか「ばかやろう」と書いた紙を張って、24時間“見せ”、それを氷結させ、結晶を顕微鏡で撮影。すると「ありがとう」の水は、平凡な六角形から美しい雪のような結晶へと変わり、「ばかやろう」の水は結晶が壊れてしまったそうです。
 人間の体も6〜7割は水分ですから、私たちの体内でも同じようなことが起きているのかもしれません。東京女子医科大学自然医療研究所の川嶋朗所長に聞いてみました。
 「医学的なデータがでているわけではないので、明言はできませんが、水には科学では解明されていない不思議な力があると考えています。例えば、生物には治癒力が潜在していますが、これも水の影響が何かしらあるのではないでしょうか。日常生活でも、コップやペットボトルの水に『ありがとう』と声をかけてから飲んでみてはどうですか? 体にきれいな結晶を吸収していると思うと、ストレス解消になるかもしれません」
 これならお金も手間もかかりません。どうせなら、きれいな結晶の水を飲むほうがいいと思う方、試してみては?
(ライター・田中響子)

他に写真が3枚。「ありがとう」と書いてあるらしいプラスティックの容器に液体が入っていて、その写真の左上に『書いて見せてもいい』という文字が入っているのと、結晶の写真が2つ並んでいてその下に“「ありがとう」「ばかやろう」の水の結晶(左から)”というコメントが入っているもの。
記事を紹介しているアナウンサーは、「水にありがとうと言ったほうがよいのでしょうかねぇ」というようなことを言っていて、そこにいた北野大さんは「水は不思議でまだ科学的に解明されていないところもあるが、数十年化学をやってきたぼくからするとちょっと…」という感じだった*1
何より北野さんがいてくれてよかったと思う次第であった。
川嶋朗さんのコメントはオンエアーの時は何を言ってんだと思ったが、冷静に記事を読むと正しい意見だと感じる。治癒力に水が何かしら影響しているというのは至極当然なことだし、最後のほうはプラシーボ効果のことを言っているようにも思える。しかし、コメントがかなり誤解されそうな形で載せられている気がする。*2
記事に「ありがとう」を見せると美しい結晶ができるとあるが、そのようなことをしなくても、人工的に雪の結晶を作る時に温度や空気中の水蒸気量を調整すれば結晶の形を制限できることがわかっている。これはkikulogの水伝: 「mixiに書いたこと」へのご意見はこちらにのながぴいさんのコメントに詳しく書かれている。
また、世界で初めて人工的に(研究室内で)雪の結晶を作った中谷宇吉郎(うきちろう)先生のエッセイ集『雪は天からの手紙』もわかりやすく、かつ楽しく教えてくれる。

雪は天からの手紙―中谷宇吉郎エッセイ集 (岩波少年文庫)

雪は天からの手紙―中谷宇吉郎エッセイ集 (岩波少年文庫)

きっと温度や水蒸気量を調整した状況では、人間がどんな言葉を言おうが見せようが結晶の形は(ある程度)決まってしまうということだろう。こういう結果から、どんな風に結晶成長するかとか予測してモデルを作ってシュミレーションして…ってほうが単純に楽しいしすごいと思うんだけどなぁ。
なので、まあポエムとして信じる分にはよいだが、これを写真つきで事実のように報道することはかなり問題あり。特に問題なのは、この“水にありがとう”のもとになっている『水からの伝言』という本は、小学校の道徳教育に用いている例があるのだそうな。
こういったことを信じてしまうと、『人は見た目が10割』みたいなことにもなるし、そもそも言葉の意味が一つに決まってしまうというのは如何なものかと思う。また、それがウソだとわかってしまった時の教師や大人への信頼は揺らぐのではないか。
そういったことについてはkikulogの菊池さんが「水からの伝言」を教育現場に持ち込んではならないと考えるわけという文章で詳しく述べられているし、茂木健一郎さんの「水は語る」の読書感想も興味深い。茂木さんのは特に後半の“「他者性」への感受性が欠落している”というところが。
こういった意見を見ると、道徳の授業に使うのには適さないものだと感じる。


今回はこの記事が出たということよりも、テレビ朝日の番組内で堂々と紹介されていたことに驚いたわけであるが、最後にこの記事とは直接関係なく思ったことを一つ。
それは、どうして番組内で紹介された新聞等を番組サイト等でどの記事を扱ったのかという情報が載せられないのだろうということ。正直紹介されて興味を持った記事が欲しくなった時困る。権利関係で難しいのかもしれないが、見出しくらい出しておけないものなのかなぁ。



◆『水からの伝言』の参考文献へのリンク◆

*1:他にも再現性の話だったり、じゃあ「サンキュー」だったらどうなるんだということもちらっと言っておられた。

*2:追記:星になれ! - 波動注意報 -狂った博士に狂った記者によると川嶋朗さんも波動系だそうです。。